THE CANADIAN PROJECT
by: Fuma75

ハリファックス

カナダの東の端、海岸沿いに面するノヴァ・スコティア州ハリファックスは、世界でも最も実験的で進んだヒップホップが鳴り響く都市の一つ。ハリファックス・シーンを代表するアーティストといえば、地元のラジオ局でヒップホップ・ショウを持っていたというBUCK 65、そこに入り浸っていたというSIXTOOの2人だろう。ユニットSEBUTONESとしても活動する彼らだが、単独作においても、ブレイク・ビーツと生楽器が有機的に融合したプロダクションや屈折したライムなど、共通点の多い2人である。音楽的な面以外でも、ANTICONとのコネクションを同地に持ち込んだのはSIXTOOらしいし、2人がシーンに果たした貢献は計り知れないだろう。ハリファックスを世界的な都市にした2人が相次いでメジャー契約を果たした事が、今後の同地のシーンにどのような変化をもたらすのか、興味深いところ。

躍進目覚しいTHE GOODNIGHT MUSICSは、ハリファックスを代表するレーベル。中心人物のDJ/プロデューサーGORDSKIは、ファンクを基調とした比較的オーソドックスなサウンドを鳴らしているが、選りすぐられたブレイク・ビーツは高水準。GORDSKIとコンビを組むKUNGA 219は、SIXTOOの流れを汲んだMCで、そのSIXTOOも参加したソロ・アルバムではポエトリーも披露していたりもする。2人のグループ、THE GOODSは既に3枚ものアルバムをリリース、どれも2人の個性と相性の良さが表れた傑作だ。GORDSKI、KUNGA 219と共にROOSEVELT THARPAというユニットでも活動するTACHICHIは、奇妙な声を持つバトルMC。カナディアン・ヒップホップ・クラシック"TRUTH OF TRADE"をそのTACHICHIと共に作り上げたDJ MOVESは、これまでも数え切れないほどのドープ・ビーツを世に送り出してきたハリファックス出身のベテランDJで、現在はトロントに移って活動を続けている。前述のハリファックスのMC達以外にも、トロントのGOVERNOR BOLTSやバンクーバーのBIRDAPRESといったMCとアルバムを作っているし、HIP CLUB GROOVEなるグループで94年にアルバムを残している他、LENというカナダのロック・グループのアルバムに参加するなど、興味深い活動を続けている。自身のレーベルLOW PRESSUREは畳んでしまったが、FRIED CHICKENなる新レーベルを立ち上げ、TACHICHIとのコンビ第2作となる"BOOZE BROTHERS"やORAKULL改めCEE!!!!!!とのユニットTHE DRUNKEN ARSEHOLESをリリースした。

忘れてはいけないのが、SIXTOO、BUCK 65、GORDSKI、DJ MOVESなどのエリート達とコラボレーションを続けてきたJOSH MARTINEZだ。ラップよりレゲエが好きだという彼の、ポップな節回しや日常を詩的に表現するリリカル・センス、独特のユーモア、どこを取っても一級品。ここ日本では、最も人気のあるカナディアンMCなのではないだろうか。SHAPE SHIFTERSのAWOL ONEやOLDOMINIONのSLEEPなど、アメリカのMCとユニットを組んだりもしているし、これまでのネックだったディストリビューションも、今年は"BUCK UP PRINCESS"がアメリカでは6 MONTHSから、ヨーロッパでもとあるロック系レーベルから再リリースされるとの事で、実力に見合った人気を得る日はすぐそこだろう。

その他には、多くのカナディアン・クラシックに参加してきたKNOWSELFやRECYCLONE、昨年デビュー・アルバムを出したJOHNNY HARDCOREといったソロMC達、GINZU3、SAVAGE POETICといった自身のクルーやJOSH MARTINEZにもトラックを提供しているJESEE DANGEROUSLY、BENDING MOUTHの片割れでソロ・リリースもあるTHESIS SAHIB、2枚のアルバムをリリース済みのCLASSIFIED、スクリブル・ジャムDJバトルでのダースベーダー・ルーティーンで有名となったDJ、SKRATCH BASTARDなど続々と才能溢れるアーティストが出てきている一方、96年にリリースされたコンピレーション"THE BASSMENTS OF BAD MEN"でSIXTOO、BUCK 65、GORDSKI、DJ MOVESといったアーティストをまとめてシーンに紹介した伝説のレーベル、HAND'SOLOもハリファックスを語る上で欠かせない。

ウィニペグ

アメリカはミネソタ州と国境を挟むマニトバ州に目を移すと、ウィニペグにはMCENROE率いるPEANUTS & CORNが居を構えている。92年頃からビート作りを始めたと言うレーベルの中心人物MCENROEは、名実共にカナダのNO. 1プロデューサーだ。生楽器とクリスピーなドラムとで構成される彼のビートは、カナダの空気感というか、風景を見事に切り取っているし、一聴して彼のものと分かるオリジナリティを誇っている。ソロ名義でのリリースは勿論、レーベル所属のMC、JOHN SMITHとのユニットPARK-LIKE SETTINGの他、短編小説のサウンド・トラック"BILLY'S VISION"や、PEANUTS & CORN発足の切っ掛けとなったグループFARM FRESHをMCENROEと共に結成していたPIP SKID、MC集団FREK SHOの一員としても活動するGRUF、前述のJOHN SMITHといったレーベルの看板MC達のプロデュース、JOSH MARTINEZ、INK OPERATED、MOOD RUFF等にビートを提供したり、カナダからリリースされる多くのアルバムのマスタリングも手がけるなど、精力的な活動を続けている。

PEANUTS & CORNの周辺には彼らの影響を強く受けたクルーが幾つか存在していて、GRUFを筆頭に、PEANUTS & CORNからデビューが予定されているSPOOF、SHAZZAM、GUM、LEGEND、SUNIL、ISMAILAというオリジナル・メンバーに、昨年からMCのIRA LEEとプロデューサーのKUTDOWNが加わったFREK SHOは、90年代中頃から活動を始めたグループで、これまでに2枚のアルバムと1枚EPを発表。YY、GUMSHOE STRUT、GENERAL GYST、JOHN SMITHで構成されるクルーYOUR BROTHER IN MY BACKPACKからは、SCORPONIXや最近アルバムを出したSATCHEL PAIGEといった新しい才能も出てきている。

オンタリオ

オンタリオ州トロント郊外に位置する街ゲルフに注目を集めたのは、アメリカから幼い頃に移住してきたNOAH 23率いるPLAGUE LANGUAGEの面々だ。3枚のアルバムを出しているNOAH 23を筆頭に、そのNOAH 23とのスプリット・シングルでデビューし、昨年アルバム・デビューも果たしたBARACUDA 72、メイン・プロデューサーのORPHANなど、優れた才能が集まっている。ドラムンベースに接近したトラックやアメリカ西海岸の女性MC、PENNYのアルバムをリリースするなど、まだ謎な部分が多い彼らの全貌は、今後TROUBADOURをはじめとするクルーが音源を出していくに連れ、明らかになってゆくだろう。NAVAL AVITOR、HORSE THIEF、TREEVORTEXの3人によるTWINSISTERSというグループも、ORPHANやNOAH 23が参加したアルバム"AMULET"をリリース済みで、今後もPLAGUE LANGUAGEクルーとの更なるコラボレーションが期待される。

そのNOAH 23のアルバム"TAO CETI"をリリースしたレーベル、LEGENDARY ENTERTAINMENTもオンタリオにある。このレーベルは、MOKA ONLYの初期カセット・アルバムをCDで再発したり、ISHKAN、JEFF SPEC、BIRDAPRES、ELECTRIK O、NOWFOLK、THE RAPPERSといったMOKA ONLY周辺で活動するアーティストのアルバムを多数リリース、複数のソロ・アルバムを出しているINFINITE P率いるENDANGERED SPECIES、SAVILIONやTHOUGHT? BUGといったソロ活動も盛んなMCを配するCREATUREBOXなどのアーティストもサポートしている。他にも、カナダは勿論アメリカ西海岸やイギリスのアーティストも参加したコンピレーション"GRIMEY GROOVZ"のリリースなど、インターナショナルな活動を続けている。

カナダ最大の都市トロントで活動する面子では、DJ MOVESやBUCK 65などハリファックスのアーティストとのコラボレーションが目立つ多重人格MCのGOVERNOR BOLTSや、"MENTAL REVERSE/SPIRITUAL REBIRTH"というカナディアン・ヒップホップを語る上で欠かせないクラシック・アルバムを残しているMINDBENDERとCONSPIRACYによる双子MCデュオSUPREME BEING UNIT、心地良いビートとポジティヴなライム満載のアルバム"PASSAGE THROUGH TIME"をカタログに持つグループDA GRASSROOTS、その"PASSAGE THROUGH TIME"にも参加し、他にもRASCALZなど多くの作品に客演を残すTHRUST、GROOVE ATTACKのSUPERRAPPINシリーズに参加したMATHEMATIK、デビュー・シングル"PEACE & QUIET"が日本でもヒットしたFRANKENSTEIN、COMMONやMASTA ACEなどアメリカン・アーティストとも積極的にコラボレーションをし、DEF JAMと契約したSAUKRATESなどは日本でも知られた存在。他にも、KUDO 5やDJ SERIOUS、D-SISIVEらで構成されるクルーCRYPTIK SOULS、同クルーのメンバーでもあるMC ABDOMINALとその相棒DJ FASE、ソロ・アルバムにはCHARLIE 2NAやUGLY DUCKLINGが参加しているというDJ FORMATなどなど、数多くのアーティストがメジャー/インディに関わらず活動している。トロントから少し外れた街ロンドンには、CHOKE、TIMBUKTUなどによるTOOLSHEDがいて、リリース済みの3枚のアルバムでは、生楽器を積極的に導入し、よりライヴ感の強いサウンドで他のグループとの差別化を図っている。

ヴァンクーバー

ブリティッシュ・コロンビアのヴァンクーヴァーには、最も著名なカナディアン・ヒップホッパーの一人であるMOKA ONLYがいる。同郷のSWOLLEN MEMBERSのPREVAILと共に、ヴァンクーヴァーにフリースタイルを持ち込んだとされるMOKA ONLYは、ヒップホップ史上最も多くのアルバムをリリースしているMCの一人でもある。爽やかでポップな彼のキャラクターは唯一無二だし、80年代から活動を始めたというから、正にヴェテランだ。95年の"UPCOAST RELIC"を皮切りに十数枚のアルバムをリリース、アメリカ西海岸のアーティストとのコラボレーションも多く、KEMETIC SUNSのKIRBY DOMINANTとユニットTHE DOMINANT MAMMALSではアルバムも出している。同じヴァンクーヴァーのISHKANとのユニットNOWFOLK、JEFF SPECとのユニットTHE RAPPERSなど複数のユニットに加えて、今年に入って正式にSWOLLEN MEMBERSの一員となったらしい。他にもMOKA ONLYは、MOVESとアルバムを出したBIRDAPRESや、2枚組みアルバムを出しているELECTRIK Oなどのヴァンクーヴァー・コネクションで積極的に曲を作っているようだ。

KABOOM、EPIDEMIC、GRAFHIC、MUMBLZで構成されるINK OPERATEDは、昨年リリースしたデビュー・アルバムでMCENROEやMOVESとコラボレイトし、アルバム収録曲"VAN CITY REIGN"では、曲名通りヴァンクーヴァーをリプレゼント。サスカトゥーン出身の双子SASAFRASとSHRMPに、ヴァンクーヴァーでキャリアを積んでいたBOYA-Dが加わって97年に結成されたISOSCELESは、彼らのレーベルTHICK N THIN RECORDINGから自らのアルバムの他、SACH、ADLIBなどで有名なアメリカ西海岸のクルーGLOBAL PHLOWTATIONSのORKO THE SYCOTIC ALIENなどもリリース。MISFITとRED 1の2MCにDJのKEMO、アートワークも担当するB-BOYのDEDOSとZEBROCによるRASCALZは、THE BEATNUTSやALCHEMISTなどアメリカのアーティストとも頻繁に曲を作っていて、カナダのみならず世界中に名前を知られるグループ。

サスカトゥーン

マニトバの西隣、サスカチュワン州のサスカトゥーンという街は、比較的新しいレーベルOFFBEAT PRODUCTIONSの本拠地。生楽器を織り交ぜた素朴なサウンドを持ち味とするプロデューサーのFACTORがオーナーを務めるこのレーベルには、VIZION、KAY THE AQUANAUT、CHAPS、M.PHASIS、DEVO-TEA、PATTY Cといったアーティストが所属、FACTOR、VISION、KAY THE AQUANAUTといった代表的なアーティストがアルバムをリリースしている。サスカトゥーンと言えば、EPICとSOSOも自分達のレーベルCLOTHES HORSEから数こそ少ないながらも印象的な作品をリリースしていて、注目に値する。PIP SKIDをはじめとするPEANUTS & CORN周辺とも頻繁にコラボレートをしているし、カナダの豊かな自然を思い起こさせるような情緒的なトラックの数々は、どれも質が高い。

モントリオール

フランス語圏でもあるケベック州モントリオールではフランス語によるラップも盛んで、DUB MATIQUEやMUZIONといったアーテストはヨーロッパ諸国でも聴かれている。だが、当地の最も有名なアーティストと言えば、ターンテーブリストのKID KOALAとA-TRAK。そのA-TRAKもメンバーのOBSCURE DISORDERは、今最もアルバムを期待されているグループの一つで、要チェックだ。

(3.2003)