LP/EP SQUARE : MAN OVERBOARD : VERTEX : GAME TIGHT



SQUARE

Label: WARNER MUSIC CANADA (2002)

Artist: BUCK 65

Production: Buck 65


1. Square One
2. Square Two
3. Square Three
4. Square Four
BUCK 65がWARNERと契約したというニュースは、多くのファンの間で驚きをもって迎えられただろう。中には”セル・アウト”という単語が浮かんだ者もいるだろう。多くのアンダーグラウンド・ヒーロー達がメジャー契約を境に、それまでの輝きを失っていく様をイヤと言うほど見せ付けられた訳だから無理もない。が、BUCK 65にとって、レーベルと言うのは所詮アウトレットに過ぎないと言う事を忘れてはいけない。音楽業界の政治にばかり気を取られ、肝心の音楽が横に追いやられてしまうようでは、自己矛盾も甚だしい。

アルバムは、十数分にわたる4つのパート"SQUARE"が収められている。BUCKは、これまでの作品同様パーソナルな心模様を聴かせてくれるが、本作ではより深く、かつてのユーモアは控えめに、何時になくダークだ。次から次へと変化するサンプリング・ループ、ドラム、ヴォーカル・コラージュ、スクラッチの合間を縫うように、様々な物語が綴られてゆく。それらは、奇妙な寓話のようでもあり、BUCKの心の鏡でもあるのだろう。全貌を理解するには、相当の時間が必要とされそうだ。彼らしい複雑な構成もあって、美しいループやそれぞれの物語を追っていくだけでは、アルバムの一片を垣間見ているだけに過ぎない。個人的にも全てを理解できたなどとは決して思わないが、あえてアルバムの印象を端的に表すなら、ロマンティックかつ繊細なアルバム、というのが一番シックリくるかな。それだけでも、ヒップホップの表現を更に広げた、BUCKにしか作り得ない極めて独創的な作品だと言えると思うが。

旧作のリイシューもそうだが、WARNERはよくこれほどの作品を出せたものだと思う。サンプル・クリアランスだけでも相当大変だったと思うが...。アルバムのトータル・プロデュースという意味では、これまでで最も質の高いアルバムだと思う。メジャーと契約したからって、BUCKが変わると思っていた人などいないと思うが、もし貴方がそうなら、彼を侮りすぎだ。必聴。




MAN OVERBOARD

Label: ANTICON (2001)

Artist: BUCK 65

Production: Buck 65


1. Off And Running
2. Plastic Bags
3. Up The Middle
4. Hats On Beds
5. Lil' Taste Of Poland
6. Sunday Driver
7. Can Of Worms
8. You Know The Science
9. "Ice"
10. Achilles And The Tortoise
11. Coleco Vision
12. Azazello's Cream
13. Secret Splendor
14. Pants On Fire
15. Mudslide
前作"VERTEX"の素晴らしい完成度で、BUCK 65は正式にカナダのみならず世界的なプロデューサー/MCとなった。彼は決して世界最高のリリシストでも、革命的なビート・メイカーでもないが、アルバムを単なる曲の集まりではなく一つの大きな塊として、大きな視野で全体を構築するその手腕は、彼を”ドープなラッパー”とか”優れたビートメイカー”といった紋切り型の評価から遠ざけている。因みにこのアルバムも、ラップ、プロダクション、スクラッチ、全て彼一人の仕業だ。

B級ホラー映画みたいなイントロで始まるこのアルバムは、基本的に前作と同じ方向性を持っている。神に懺悔する"PLASTIC BAGS"、自らの事について語る"UP THE MIDDLE"などは正にBUCK節。珍しくダンサブルな"YOU KNOW THE SCIENCE"は、世界中のDJ達への賛歌。ヴァイナル文化への彼の愛情が詰まった、最高の一曲。最高にエモーショナルなのが、"ICE"。乳癌で死んだ彼の母親への思いを切にライム、感動的だ。アルバム中で最も異色なのが、"ACHILLES AND THE TORTOISE"と"COLECO VISION"。両曲とも、細かいスキット的なモノやトラックで構成されたコラージュ。"ACHILLES AND THE TORTOISE"の前半はポエトリー、後半にはANTICONのコンピでお馴染みの"UNTITLED"が。勿論フレッシュだ。アルバムのベスト・カット"PANTS ON FIRE"は、ブルージーなトラックがとにかくドープ。誰でも一度は感じた事があるであろう、信頼についての疑念を語る。

トラック勿論どれもドープ。何より彼のプロダクションで素晴らしいのは、自分のラップがどんなトラックで最も映えるかを、熟知している点である。沈みまくった"PLASTIC BAGS"や"UP THE MIDDLE"のようなモノから、幻想的な"ICE"、"SECRET SPLENDOR"、ブルージーな"PANTS ON FIRE"、"YOU KNOW THE SCIENCE"のようなキャッチーなモノまで、どれも彼以外のMCがラップする事は考えられないようなトラックばかり。あと、当然のようにアルバムの端々に散りばめられたブレイクの数々も素晴らしい。

簡単に言うと、素晴らしい出来である。前作で完成をみた彼のスタイルの、きれいな延長線上にあるアルバムだ。リリック、コンセプト的に、前作より少し後退した感があるが、それでも素晴らしい作品である。




VERTEX

Label: WANNER CANADA (1999)

Artist: BUCK 65

Production: Buck 65


1. Sounds From The Back Of The Bus
2. The Centaur
3. Driftwood
4. Jaws Of Life
5. The Blues Pt1
6. On All Fours
7. Slow Drama
8. Sleep Apnoea
9. Brown Truck
10. In Every Dream House There Is A Heartache
11. The Blues Pt2
12. Memory Is Parallax
13. To Say The Very Least
14. Works Of Light
15. Supper At Sundown
16. Bachelor Of Science
17. The Blues Pt3
18. Style #386
BUCK 65。あらゆる作業を一人でこなす彼、ヒップホップ界のプリンスとでも言いたくなるアーティストだ。この"VERTEX"は、そんな彼のマルチな才能が完成をみた、一つの到達点。全体を貫く優れたプロダクションに、私/詩的なリリック、ストーリーテリングを通して見えてくる彼の内面。一人のヒップホップ・ジャンキーが作り上げた、紛れもない芸術作品が、ココにある。

ラッパーとしては、彼の癖の強いデリヴァリー、声に拒否反応を示す向きも多いことは予想できるが、それを持って彼を’弱いMC’と呼んでしまうのは、優れたリリシストとしての彼の姿を無視する事になる。

まずは"THE CENTAUR"が強力だ。アソコがでかい男の心の内を淡々と語った奇妙な傑作。「言いたい事は山ほどあるのに/アソコがでかすぎるせいで誰も聞いてくれない」。ヴァイオリン・ループも印象的だ。彼のプロダクションを聴けば、彼がどれほどサンプリングに拘っているかが分かると思うが、"DRIFTWOOD"では、その「掘り師の哲学」をライム。でも、彼にサンプルの事は聞かないほうが良い。「俺に”ドラムは何?”とか聞くんじゃない/お前には教えないか、嘘のレコードを売りつけるだけだ」。"JAWS OF LIFE"のドープなサックスもそんな一例。「赤ん坊が好きで、授賞式では涙を流す/.../ファイン・アートとJOHN GALLIANOのファン」と自らの事について語る"ON ALL FOURS"のギター・ストリングス、映画からのサンプルもドープ。"TO SAY THE VERY LEAST"では、ウェイトレスに対してのロマンス物語。「注文をしながら、それを書き留める君を見つめる/君がメニューに載っていたら、と願いながら」。BUCKが、女を漁る大学教授を演じる悲哀の物語"BACHELOR OF SCIENCE"も面白い。物語といえば、3つのパートに分けられた"THE BLUE"は、さながら野球中継。一曲につき3イニングづつ語られていくこの3部作は、彼のストーリーテリング・スキルの非凡さの一つの証明だ。ラスト"STYLE #386"は、アルバム中でも、最もキャッチーなドープ・チューン。

アルバムを通して思い知らされたのは、BUCK 65がラッパーとしてもプロデューサーとしても、一流だと言う単純な事実だ。全く隙の無いトラックの数々、斬新なライム/コンセプト、スクラッチは”味系”だが、ともかく、ドープとしか言いようのないアルバム。フレッシュなドラム・ブレイクが登場する度に、聴いた事も無いようなライムがキックされる度に、ヒップホップが好きでよかったと実感させてくれるアルバムだ。”ヒップホップはつまらない”とお思いの全てのリスナーへ、是非この作品を。




GAME TIGHT

Label: MURDER RECORDS (1995)

Artist: BUCK 65

Production: Buck 65


1. Three Up Three Down
2. Easy To Be Hard
3. Kick Up A Stink
4. Caught Lookin'
5. You're Pissin' Me Off
6. Jackie Robinson
7. Work To Do
8. Maintenance
9. Pennies From 87
10. Fully Equiped
11. I Just Laugh
12. Get Lost
13. Ten Miles
14. Thought So
15. Killy Nem See
カナダ・ヒップホップの中でも変態的な連中が多く生息するハリフィックス。その筆頭はやはり、このBUCK 65だろう。トラックからラップまで全て自分でこなす才人。これは、彼が95年にSTINKIN RICH名義で出したアルバムだ。今の彼からは想像もつかないほど、明るくアップテンポな曲も多いので、聴きやすい。

MCの心得を語る"THREE UP THREE DOWN"からして、ファンキーなベースラインにホーンを使ったパーティー・チューン。ラップは、今よりもストレートでアグレッシヴ。定番ドラム・ブレイクで持ってゆく"EASY TO BE HARD"、メロウなキーボードにホーンがドープな"KICK UP A STINK"、これまた定番ブレイク使いの"CAUGHT LOOKIN'"などなど、何の変哲も無いバトル・ライム。インタルード"JACKIE ROBINSON"を挟んで、ほのぼのしたループが、ある種ネイティヴ・タンを彷彿とさせる"WORK TO DO"、”俺に敵う奴はいないぜ”的なイケイケ・トラックの"I JUST LAUGH"(これがベストかな)、ホーンがとにかくファンキーな"TEN MILES"、当然のようにラストも、"KILLY NEM SEE"のバトル・ライムで締めくくり。サビの声ネタにKRS ONEヤOCを使っている事などからも、彼のスタート地点が垣間見れて興味深い。

トラック的には、これと言ってオリジナリティは無いものの、彼の奇妙な声が耳からこびり付いて離れない強烈な 個性に溢れている。これ以降の彼のアルバムに比べて、音的に普通なので、入門用には良いかも知れない。ファンにとっても、素直だった頃の彼の作品を聴くと、今の彼の作品への理解が深まるかも。